※HGSSの話ですが、FRLGの男主人公と女主人公二人が存在しています。
FRLGの主人公二人とグリーンが幼馴染設定です。
FRLGの男主人公→レッド
FRLGの女主人公→アクア
HGSSの男主人公→ヒビキ
延々と続く真っ白な世界をひたすら歩く。
(寒い、寒い! 本当にこんなところにいるの?)
あまりの寒さに手足が冷たさを通り越してズキズキと痛む。こんな寒いところで彼は一体何をやっているのだろうか。
(なんでわざわざ寒いところを選ぶんだか……)
軽くため息をつき、歩くスピードを速めようとしたとき。白い世界にぽつんと赤いものが見えた。思わず駆け出す。
「……! レッド!」
「……!? え、アクア……?」
勢いあまって彼に体当たりをしてしまった。突然の攻撃に対応出来なかったせいで、二人とも雪の上に飛び込むように倒れてしまう。
「何やってたの、3年間……。急にいなくなったから皆心配してたんだよ!」
何度も瞬きする瞳を問いただすようにじっと見つめる。一瞬目を見開き、彼は弱弱しく笑った。
「3年、経ってたんだ」
そうか、そんなに時間が過ぎてたんだな、と暢気に呟くレッドに愕然とする。
思えば彼は昔からそうだった。何かに夢中になると時間を忘れてしまうようだ。それは主にポケモンのことだったけれど。
数年ぶりにあった幼馴染が無事で、昔と変わっていないことに安堵したと同時に、一回も連絡をくれなかったことに対して腹が立った。
(グリーンも、こんな気持ちだったのかも)
ふともう一人の幼馴染を思い出す。レッドに対して嫌味ばかり言う彼のことを、実はほんのすこし苦手だった。しかし付き合ってみると、レッドのことが嫌いだから反発的な態度をとっているのではなく、むしろその逆だと気づいた。いろいろ彼なりに思うところがあって、素直になれないでいるみたいだが。
そもそもこんな山奥にまで彼を探しに来たのはグリーンがきっかけだったりする。
彼からレッドがいなくなったと聞いたとき、そのうち帰ってくるだろうとあまり気にしていなかった。喋る事を得意としない彼だが、行動力は凄いのだ。ふらっといなくなったと思ったら、気がついたら戻ってきている。今回もそうだろうと疑わなかった。
しかし、今度は違った。何時まで経っても彼がマサラに姿を現すことはなかった。さすがにこれはおかしいと私も気づき、グリーンに連絡をとってみたのだ。
「お前、おかしいって気づくのが遅くないか?」
「だってさー……。またすぐに戻ってくると思ってたんだよ」
呆れたとばかりに深いため息をつかれる。
「グリーンもおかしいと思ったなら、探しに行けばよかったのに」
その言葉で彼の顔が強張った。
「……俺だって、暇じゃないんだよ。お前らと違って今はジムリーダーだからな。あいつを探しに行く時間なんてないんだよ」
「ふーん……。それにしては、ジムが開いてない時間が多々あるみたいだけど? てっきりレッドが心配で探し回ってるのかと思った」
顔が引きつった。図星のようだ。
お前、それをどこで聞いた、と喚いているグリーンを無視し、意地悪い笑みを浮かべる。
(いい加減、素直になったらいいのに)
本当は自分にもレッドを探してほしいと頼みたかっただろうが、プライドがそれを邪魔して言えないのだろう。しかし残念ながら、必死に隠している感情は自分には駄々漏れだ。
「ま、しょうがないから、私も探すの手伝う。グリーンよりは身軽だからね」
「だから、俺はあんなやつのことなんて気にしてねーよっ!」
そんなこんなで、行方不明の幼馴染を探すこととなった。
まずは聞き込みからはじめたのだが、彼の噂話は思っていた以上に多かった。彼の姿を見た、というところを片っ端から探してみたが、会えることはなかった。
そんなある日、通りすがりの少年少女たちの会話を耳にした。
「ヒビキくん、どうしたの? 難しい顔して」
「……さっきさ、凄い強い人と戦ったんだ。でも負けちゃってさ」
負けた、という少年はなぜか活き活きとしていた。あんな表情を、彼もしていた気がする。
「えっ、珍しいね。ヒビキくんが負けるなんて。……どんな人だったの?名前は?」
「名前……そういえば名前、聞いてない!」
しまった、とばかりにうな垂れる彼の肩を少女がそっとたたく。
「またその場所に行けば会えるんじゃない? 私も戦ってみたいな」
「……そうだね! ほかの人と少し雰囲気が違うから、会えばすぐわかると思うよ。次に戦うときは、絶対勝つんだ!」
「うんうん、その調子! ヒビキくんなら勝てるよ!」
目をきらきらと輝かせながら話す少年たち。数年前の自分たちも、こんなふうに語り合ってたっけ。主に話すのは私とグリーンで、レッドは話を聞いてるのが多かったけれど。
気がつくと、彼らの姿は小さくなっていた。懐かしい思い出に浸っている間に、話が終わってしまったようだ。
姿が見えなくなる前に、彼らに話しかけなければ。もしかしたら、『凄い強い人』は彼かもしれない。
「ね、ねえ君――!」
*** *** ***
「――アクア?」
何もいわない自分を不思議に思ったのだろう。困惑した顔で覗き込んできた。
「ねえ、ヒビキ君って知ってる?」
「ヒビキ……?」
誰のことだと首をかしげる。その仕草がなんだかおかしくて、つい頬が緩む。
「次にバトルするときは絶対勝つって言ってたよ」
――でも彼とバトルする前に、私と不機嫌な幼馴染の相手をしてね。
そう言うと、彼は帽子を深く被りなおし、小さく微笑んだ。